大人の矯正

 矯正装置   大人の矯正の問題   矯正治療例   矯正Q&A   矯正歯科と審美歯科 

大人の矯正の考え方

 子供の 矯正 では、その子の成長段階に合わせて、各種の矯正装置を使い分けます。
子供の顎には成長の余地があります。  その成長余地を上手く活かして、コントロールして、 矯正歯科 治療を行うことが、より良い矯正歯科治療のゴールへ結びつくわけです。
しかし、大人の場合、基本的に成長ということを考える必要がありません。
そのため、現在の骨格の状況下において、『歯のレベル』での矯正を考えれば良いわけですね。

 大人の 矯正 治療では、マルチ・ブラケット法を用いた治し方が一般的です。
マルチ・ブラケット法では、歯の表面にエッジワイズ・ブラケットという 矯正 装置を付けて、矯正用のワイヤーを通して、ワイヤー自体の弾力性やゴム、バネなどの付加的な矯正力を歯に加えることで、歯を3次元的に移動させ、歯並びを治していきます。

 現在、各種のマルチ・ブラケット法のテクニックがあります。  各々のテクニックにより、矯正装置ブラケットには細かい機能(?)が組み込まれています。  歯を3次元的に動かす為に、オフセット(水平面的な位置のズレ)、アンギュレーション(近遠心的な歯の傾き)、トルク(前後的な歯の傾き) といったものです。  矯正のテクニックにより、それらは微妙に異なります。  どれが正解!というものではなく、考え方の差に過ぎません。  矯正治療を受ける側にとっては、ハッキリ言って関係の無い話です。

大人の矯正治療における問題

 矯正歯科 治療に年齢は関係あるのでしょうか?
子供の歯は直ぐに動くけれども、大人の歯はなかなか動かなくて時間がかかる、という噂をよく耳にします。

 歯に限らず体の新陳代謝は年齢とともに低下して、細胞活性などの機能低下に伴い創傷治癒は遅延していきます。
歯の矯正移動に伴う組織学的研究はありますが、歯の矯正移動と加齢の影響という実験報告はいまだ見たことが無いので、具体的にどの程度、どういう違いが生じるのかは分かりません。  しかし、年齢とともに基本的な歯の移動反応が変わるわけではないでしょう。

 成長が絡んだ 矯正 治療については年齢的な限界がある事は当然です。
歯のレベルで行う矯正治療については、あったとしても、大きな要因にはならないと考えています。  実際に、個人的な所感を述べるならば、子供と大人で矯正治療に伴う歯の移動スピードの明らかな違いを感じたことはありません。  あえて言うならば、大人では個人差が大きく、また、同一人であってもその左右の歯で動きに違いを認めることがある、ということでしょうか。

 その他に大人の矯正治療で問題があるとすれば、

歯周病などに罹患していて、先ず最初に歯周病治療を行わなければ、矯正治療のステップに進めないことがある。
社会的制約ににより、治療術式や治療期間が制限されることがある。
骨格レベルの改善は、外科矯正でもしない限り不可能である。

しかし、いずれもクリアできるものです。  必ず道は開けます。

矯正治療の組織学的反応

 矯正 の力が歯に加わると、歯の周りには押されている側(圧迫サイド)と引っ張られている側(牽引サイド)が生じます。
圧迫サイドにある骨が吸収して消失し、スペースが生まれます。   そのスペースに歯が移動します。   歯が移動すると、今度は牽引サイドにスペースが出来ます。 そのスペースに新しい骨が出来て隙間を埋めます。
このプロセスを繰り返して、 矯正 治療で歯は動いていくのです。

血流理論

 歯の移動は血液の流れによって制御されていると考えられています。
歯に 矯正 力が加わると、歯は押されて、歯根膜が圧迫される領域では血流が減少します。   一方、歯根膜が牽引される領域では血流が増加します。
このように血流量が変化すると、歯の周囲の組織内の酸素分圧が先ず変化します。 (圧迫サイドでは酸素分圧が低下し、牽引サイドでは酸素分圧が上昇します。)
その他の代謝物質も数分から数時間の間にその代謝活動のレベルに変化が生じて行きます。   その結果として、矯正の力が加わった歯の周囲で様々な化学反応が起きて、細胞レベルで反応を引き起こして、歯が移動していくのです。
          歯の移動における組織学的反応

直接吸収

 歯に加えられる 矯正 力が適切で弱い場合、4〜6時間するとサイクリックAMPという細胞活性を変化させるメッセンジャーの活動が上昇して、歯の移動にかかわる反応が引き起こされるのです。   36〜72時間すると破骨細胞という特殊な細胞が出現して、その歯の周囲の骨を吸収していきます。 (それで直接吸収と言う)   その結果、歯が動くスペースができるのです。   この時、同時に造骨細胞が働いて、歯が動いて移動した後のスペースを埋めるように新しい骨を作っていきます。
このプロセスは連続的に起きるので、歯の移動はとてもスムーズに起きてきます。

穿下性吸収

 歯に加えられる 矯正 力が過度で強い場合、歯は圧迫され過ぎて周囲の血管が押し潰されてしまい、血液の供給が遮断されてしまいます。   やがてその部分の細胞は無菌的に壊死して、虚血性のガラス化領域という細胞が死んでしまった領域が拡がります。   数日後に、周りから細胞が侵入して、壊死した組織の近くの下の方から骨を吸収して行きます。 (それで穿下性吸収と言う)   壊死した組織と骨が一緒に吸収されて、初めて歯が動きます。
このプロセスでは、歯が動かない時期と歯が動く時期とが交互に起きるため、矯正による歯の移動は遅延します。

矯正治療における歯の移動量と期間

 矯正 力が適切であるほど、停滞期は短くなります。
理論的には、最初の直接吸収のみで矯正による歯の移動が起きることが望ましいということは、言うまでもありません。   歯の移動に適した最適な矯正力は理論的にはありえますが、実際の矯正治療の場面では、歯根の大きさ、形状、歯の傾斜角、骨との関係、骨質、動かし方などなど様々に条件が異なります。
例え1本の歯でも、その歯の場所場所や時期により変化します。
そのため、実際の矯正では直接吸収と穿下性吸収の両方が同時期に起きていると考えられます。

 歯が移動した後は、周囲の歯根膜や歯槽骨で修復が行われます。
血液の流れによる脈動の研究から、最初に矯正力が加えられて3週間すると、その力により生じた反応に対する修復が済み、次の矯正力を受け入れる準備が整うことが分かっています。



最適矯正力

 実験的には、歯に10gの 矯正 力が加わっただけで、歯が移動することがわかっています。
最適矯正力には様々な考え方がありますが、一つの有力な考え方として、歯根の表面積1平方センチメートル当り150g というものがあります。 この基準を適用すると、大臼歯で240g前後、小臼歯で110g前後、犬歯で150g前後、切歯(前歯)で50〜80g前後 になると考えられます。
実際の臨床の現場では、歯の大きさは様々ですので当然それを支える歯根の大きさも様々です。 ということは予想される最適矯正力も様々・・・。 また、歯の動かし方により必要とされる矯正力は同じ歯であっても異なります。

最適矯正力

 ただ言える事は、 矯正 力を強くすれば歯が一杯動くという単純なものではない!ということです。
適切な矯正力を越す力を加えても、歯はあまり動きません。 上で説明したような穿下性吸収を起こしてしまい、動くのに時間がかかるようになります。
いかにして、直接性吸収を起こさせながら歯を矯正移動させるかが大事なのです。

 新陳代謝のスピードが下がっているから、より大きな矯正力で刺激を与えるという考え方は間違っていると考えます。  新陳代謝のスピードが下がり、無理が利かなくなっているからこそ、より慎重な矯正力の適応が望ましいのではないでしょうか。







Copyright (C) 2008 saa-dental clinic. All Rights Reserved

矯正歯科治療の中でも大人の矯正に絞って解説しています。